
栄|日本古来の在来種にこだわり抜く。蕎麦を知り尽くした職人が創り出す記憶に残る蕎麦
全国津々浦々、個人店からチェーン店まで親しまれる「蕎麦」。
品種改良を重ねた結果、今では季節や地域に関わらず気軽に楽しめるようになったのも、ひとえに戦後の食糧需給の賜物といえます。
しかし、本来日本には四季があり、それぞれの地域特性の中で育った日本古来の蕎麦在来種があることをご存知ですか?
今回は国産在来種にこだわり抜いた「蕎麦仙人」が提供する素材そのものの味わいを引き出した蕎麦を堪能してきました!
目次
たしかな素材と、たしかな職人の業をいただく。希少在来種のみを使用した圧倒的蕎麦体験が堪能できる蕎麦割烹「玄水(げんすい)」
最高峰の食が味わえる。高級店ひしめく錦3丁目
場所は中区栄。有名鮨店や高級焼肉店などが集合する名古屋屈指の繁華街「錦」の中心にある、なんとも煌びやかなビルの1階。
普段はこのような高級店ひしめく地域とは縁がない筆者なので、ビルを目前にした時は少したじろいでしまいました。
1階の通路を少し進んだ先に店舗を構えるのが、今回ご紹介させていただく「玄水」さん。
美味しい料理とお酒を嗜み、そして蕎麦で〆る「蕎麦呑み」を提唱する玄水さん。夜の街・錦にぴったりなコンセプトの同店ですが、ランチも営業しているということで今回はお昼にお邪魔させていただきました。
玄水さんのストーリーについて少し触れておきましょう。
玄水の大将である高橋長次郎さんは、40年以上も蕎麦を追求し続け「蕎麦仙人」と呼ぶ人も出てくるほど。蕎麦に対する情熱と知識、技術を練り上げた人はほかにはいないのではないかと思わせるほどの熟練の職人さん。
名古屋の蕎麦界でも有名な天白の「黒帯」さんで蕎麦を打たれていましたが、体調不良により、数年前に現場から離れることになったそうです。
病の淵から回復した大将は、「もう一度蕎麦を打ちたい。蕎麦の美味しさ、楽しみ方を知ってもらいたい」と「玄水」を拓いたそう。
歴史と想いが詰まった蕎麦をいただくと思うと、自然と扉を開ける所作も丁寧になります。
雑念が消えるかのような「潔い」店内
店内にいても季節を感じられるような配慮がされており、おもてなしの精神を感じます。
明るく清潔な店内は調理場と対面するカウンター席のみ。無駄のないシンプルな空間にはパリッとした空気が流れています。
高級感漂う雰囲気ながらもどこか親しみを感じる温かな接客で、「気軽にどうぞ」と言われているような気がしました。
こちらがランチのおしながき。
メニュー上段は蕎麦のいただき方。せいろ(ざる蕎麦)から鴨汁、天ぷら、なんと「汁なし」まで。温かい蕎麦も提供可能と記載がありますが、やはり香りを楽しむならせいろですね!
下段は蕎麦の産地と種類。日本古来の蕎麦に、厳選されてなおこれほどの種類があるとは驚きです。…一体どれがいいものやらともう1枚のおしながきを見てみると…。
それぞれの蕎麦粉の特徴が細かく記載されていました。蕎麦が育った地域性から始まり、蕎麦粉の特徴までもが簡潔かつ明瞭に記載されているだけでなく、蕎麦の仕上げ(太さ)まで記載。
品種の特性によって変えているのは仕上げだけではなく、なんと使用する水の硬度までもこだわっているとのこと。後述しますが、これは食べて納得です。
今回は「天麩羅せいろ 2,970円(税込)※蕎麦は希少種を選択+300円(税込)」と「生醤油おろしせいろ 1,650円(税込)」と烏龍茶、そしてSNSでもよく掲載されているとある天ぷらを注文。わくわくですねー。
お通しから口福の扉が開く
注文後、さっそくお通しの湯葉豆腐と烏龍茶がカウンターに置かれます。
まるで日本庭園の枯山水をイメージしたかのようなお盆を前にし、これから出てくる料理への期待と緊張感から、自然と背筋がピンと伸びます。
そしてこのお通し。いきなりただものではない。塩昆布の塩気が大豆の甘さを引き出し、昆布の旨味が大豆のコクと相乗。目視でもわかる滑らかな舌触りがキリッとした日本酒を飲みながらちびちびと食べるのにぴったりなんです。
日本酒…今回は食事の後に予定があったので断念…。ちなみにお昼からアルコール提供がありますよ!
素材×職人の経験とこだわり=「感動」Part①
天ぷらは1つひとつ揚げたてを目の前に提供していただけます。なんだか特別感がありますね。
「玄水」さんで使用する海鮮類は名古屋の台所「中央卸市場」で仕入れているそう。
丁寧に揚げられた海老の天ぷらは衣がサクッと軽く、ぷりっとしたみずみずしさを含んだ歯ごたえが楽しめます。
天つゆも奥行きのある味わいでもちろん美味しいのですが…。
箸置きに盛られた粗塩でいただくと、海老の甘さが引き出されてなお最高。塩のえぐみも楽しめます。素材へのこだわりと熟練した経験があるからこそ、天ぷらひとつとっても感動もの…。
実は海老の天ぷらが出てきて間もなく蕎麦も提供いただいたのですが、せっかくなので天ぷらを先にレコメンド!
シャキッとした歯応えのレンコンは粗塩でいただきました。土の香りもかすかに感じられ、自然そのものをいただいているような感覚になります。
個人的に天ぷらのナスが大好きなのですが、みずみずしいのは言わずもがな、適度な歯応えも残っていることに素材の良さと温度の見極めの精度を感じます。うますぎる。
…実は天ぷらはこのほかにもゴボウ、マイタケ、さらに海老がもう1本出てきたのですが、あまりにも美味しくて、気がついた時には被写体が胃袋の中に収まっていました…。
海老は幸せのお裾分けということで同伴者にプレゼント。美味しいものは人と共有することでなお美味しい思い出になるから不思議ですよね。
では、お待ちかねの蕎麦をご紹介。
素材×職人の経験とこだわり=「感動」Part②
●希少種・椎葉在来種(太打ち:手挽き)
見た目から伝わる無骨さと表面の粒感。剛健な印象ですよね。
ワサビをちょこっと乗せて蕎麦つゆに少し浸し、ズズッと啜り。そしてひと噛み。
「ふ…ふまい!!(うまい!!)」
噛んだ瞬間のグッと歯が入り込むような食感と蕎麦柄の粒感を感じたあと、甘みを抑えた黒糖のような香りがフワッと口の中に対流します。蕎麦つゆもキレがありながらもコクとふくよかな風味があって格別に美味しいのですが、蕎麦の風味が全然負けてない!
1本1本の長さも啜りすぎて風味が薄くならないよう、ひと啜りで口の中に収まるように計算されているような長さ。
噛むほどに風味と味わいの変化を楽しめる蕎麦。これが在来種なのかと、違いを感じずにはいられませんでした。こだわり半端ないです。
素材×職人の経験とこだわり=「感動」Part③
こちらは同伴者が注文した生醤油おろしせいろ。
写真で見てわかるように、蕎麦の色合いが先ほどの椎葉在来種とはまったく異なります。表面も少しなめらか。どうしても食べ比べたくて、実は一口いただいちゃいました。(笑)
●佐渡在来種(並打ち)
見た目の違いもさることながら、弾き返すような食感と甘みの強さが特徴的で、蕎麦つゆも塩もなしでそのまま食べられるくらいでした。蕎麦粉に合わせて使用する水の硬度を使い分ける玄水さんのこだわりが伝わります。
ここまでのこだわりを見せつけられると、それぞれの蕎麦を制覇したい気持ちになりますね。
最初に注文するからこそ味わえる最後の楽しみ
実はデザートとして注文していたものがこちら。
●安納芋の天麩羅
「じっくりと低温で揚げるので、ご注文されるなら最初のうちがいいですよ。」
店員さんの一言に機会損失しまいと、素直に注文。
芋の中でも特に糖度の高い安納芋。それを低温でじっくり甘みを引き出すために時間がかかるということ。
さらにここで来店者を楽しませる工夫が。
なんと目の前で着火する演出までしていただけます。これにはほかのお客さんからも「おぉ…」と声が漏れていました。期待の高まる演出を見たら、注文せずにはいられませんよね。
さあ、火が落ち着いたところで、ご用意いただいたナイフとフォークで切っていきます。
キャラメリゼされた表面をザクッと切っていくと、あるタイミングでスーッとナイフが通って行き…。
こちらが断面。まるで黄金色に輝く扉のよう。いざ素材の向こう側へ。
ナイフで切った触感通り、外側はザクッと中はねっとりなめらか。じわーっと余韻の長い甘みが口の中に残り続けます。
安納芋自体も糖度が非常に高いものなのですが、低温でじっくりと揚げた結果、さらに甘みを増した安納芋は食事の〆にもピッタリでした。
蕎麦といえば〆はやっぱり「蕎麦湯」
こんなにしっかりと蕎麦粉の濁りを抱えた蕎麦湯、なかなかありません。まるで温泉みたい。
少しずつ、とろとろーっと蕎麦つゆに注ぎ込みます。個人的にですが、蕎麦つゆ4、蕎麦湯6くらいが蕎麦湯の風味と蕎麦つゆのコクがちょうどいい塩梅。
ずっと飲んでいられるほど濃密なつゆの蕎麦湯割り。「蕎麦湯苦手なんだよねー」という方にこそぜひ飲んでいただきたい。蕎麦つゆに、温かくててまったりとした蕎麦湯が注ぎ込まれることで立ち上る湯気までもがもはや美味しい。
余談ですが、「蕎麦湯」は江戸時代に信州で(現在の長野県周辺)で飲む習慣が生まれたといわれています。もともとは胃腸の調子を整えるための薬代わりに飲まれていたそう。品種改良種ではない蕎麦は栄養価が高いためにそのような習慣が生まれたとか。美味しい薬ですね。
注文したすべての料理をいただいた後、〆の蕎麦湯が体に浸透していくのを感じながら、今日いただいた美味しい蕎麦を思い返す余韻に浸るところまで考えられているのではないかと思うと、玄水さんの奥深さを感じずにはいられませんでした。
「美味しかった!」ももちろんありますが、「いい体験ができた!」というのが個人的にすごくしっくり言葉です。
玄水の真骨頂は夜の「蕎麦呑み」
男性が食べるにはちょっと量が少ないかな?と思っていましたが、お店の暖簾をくぐって出るころには心も体も満足感で満たされていました。
今回は単品メニューを注文しましたが、ランチでも蕎麦の食べ比べができる蕎麦三昧コースがあり、夜は「大将におまかせコース」も。かなり期待が高まりますね。
次回は仕事のご褒美や記念日にとことん蕎麦を堪能したいと想います。
INFORMATION
店名:
玄水
住所:
愛知県名古屋市中区錦3-11-15 錦101ビル 1F
電話番号:
052-253-6350
営業時間:
[昼の部]
11時30分〜14時00分
[夜の部]
17時30〜22時00分(L.O 21時)
定休日:
日曜日・月曜日
一人当たりの予算:
¥3,000〜¥6,000
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